こんにちは。63歳、大阪市で一人暮らしをしている男性です。結婚はしたことがなく、子どももいません。
ある日、住んでいるマンションの郵便受けに、町内会の入会案内が入っていました。A4の紙1枚で、『新しく会員になってくださる方を募集しています』と書かれ、下には班長さんの名前と部屋番号がありました。

それを読んで、私は紙を持ったまましばらく玄関に立っていました。
「入っておいたほうがいいのかな。でも、班長の順番が回ってきたらできるだろうか」
仕事をしていたころなら、すぐに紙を捨てていたかもしれません。でも今年、63歳で介護ヘルパーの仕事をやめ、一日の大半を家で過ごすようになりました。そうなると、隣や上の階にどんな人が住んでいるのかが、急に気になり始めたのです。
この記事では、私が町内会に入るかどうかで迷ったときに考えたこと、実際に人に聞いて確かめたこと、そして入ってみてわかったことを書いていきます。同じように迷っている60代の方が、自分で決めるときの材料にしていただけたら嬉しいです。
町内会ってそもそも何をしているところ?
同じ地域に住む人が、暮らしの困りごとを分担する集まり
町内会は、同じ地域に住む人たちが会費を出し合い、手分けして地域の用事をこなしているグループです。地域によっては「自治会」とよぶこともあります。
入会案内の裏には、私の地域の町内会が1年間にしていることが書かれていました。
- 毎週のゴミ置き場の見回りと、月1回のそうじ
- 切れた街灯を市に連絡して取りかえてもらう
- 月1回、回覧板で市や警察からのお知らせを回す
- 7月の盆踊りと、11月の一斉清掃
- 年1回、近くの小学校で行う防災訓練
読んでみて、正直おどろきました。夜道の街灯が切れたとき、いつのまにか直っていたのは、だれかが市に電話してくれていたからだったのです。7年近く大阪に住んでいて、そのことを一度も考えたことがありませんでした。
入るかどうかは自分で決めてよい
町内会は、法律で入らなければいけないと決まっているものではありません。入るかどうかは、一人ひとりが決めてよいことになっています。だからこそ、なんとなくではなく、自分の暮らしに合うかどうかで決めようと思いました。
福井・東京・大阪で見てきた「ご近所」のちがい
私はこれまで、いくつかの町で暮らしてきました。町内会のことを考えるうちに、それぞれの町でご近所とどう付き合ってきたかを思い出しました。
福井の実家では、雪かきも葬式も町内総出だった
私は福井市で生まれ、20歳まで実家で暮らしました。
福井の冬は雪が多く、ひと晩で膝の高さまで積もる日もあります。そんな朝は、6時ごろから近所のおじさんたちがスコップを持って道に出てきました。だれかが号令をかけるわけではありません。自分の家の前が終わったら、お年寄りだけで住んでいる家の前まで、みんなで雪をどけていくのです。私も中学生のころから、父に言われて手伝いに出ていました。
近所でお葬式があれば、町内の女の人たちが台所に集まって料理を作り、男の人たちは受付や駐車場の案内をしました。町内会に「入るかどうか」を考える人など、当時はだれもいなかったと思います。
白骨温泉の住み込み生活で知った「顔が見える安心」
20歳のとき、私は長野県の白骨温泉で8か月、住み込みのアルバイトをしました。山の中の温泉旅館で、従業員は同じ寮で寝起きしていました。
冬は外に出られない日も多く、寮の仲間と顔を合わせない日はありませんでした。私が熱を出して寝こんだとき、隣の部屋の先輩がおかゆを運んでくれたことを今でもおぼえています。せまい人間関係はわずらわしいこともありましたが、「具合が悪ければ誰かが気づいてくれる」という安心は、あのときはじめて意識したものでした。
東京と神奈川の23年は「隣の人を知らない」のが普通だった
白骨温泉から一度福井に戻ったあと、私はまた家を飛び出し、20歳から43歳までの23年間を東京と神奈川で過ごしました。何度か引っこしましたが、アパートの隣の人と話したのは、引っこしの挨拶のときくらいです。
5年住んだアパートで、隣の人の名前を最後まで知らなかったこともあります。それで困ったことはなく、むしろ気楽だと感じていました。若くて体が元気だったから、そう思えたのだと今はわかります。
大阪に来て7年、仕事をやめてから気づいたこと
43歳で福井に戻り、三国町の特別養護老人ホームで14年働いたあと、57歳で大阪市に移りました。大阪では訪問介護のヘルパーとして6年働きました。
ヘルパーをしていたころは、朝8時に家を出て、夕方6時ごろに帰る毎日でした。マンションの人と会うのは、エレベーターでたまに一緒になるくらいです。
ところが仕事をやめると、平日の昼間にマンションにいる時間が一気に増えました。すると、廊下を歩くお年寄りの足音や、ゴミ出しの日にいつも見かける人の顔が、少しずつ目に入るようになってきたのです。
町内会に入ると良いこと
介護の現場で見た「気づいてくれる人」の大切さ
入る良さを考えたとき、まず思い浮かんだのは、ヘルパー時代に担当した利用者さんたちのことでした。
80代で一人暮らしをしていたある女性の家では、隣の奥さんが毎朝、窓のカーテンが開いているかを見てくれていました。ある朝、9時を過ぎてもカーテンが閉まったままだったので、その奥さんがインターホンを鳴らしました。返事がないので管理会社に連絡して部屋を開けてもらうと、利用者さんは台所で倒れて動けなくなっていたそうです。救急車で運ばれ、2週間ほどで退院できました。
一方で、近所に知り合いがまったくいない利用者さんもいました。週2回、私たちヘルパーが行く日以外は、誰とも話さずに一日が終わります。「声を出すのは、あんたらが来たときだけや」と言われたことがあり、その言葉は今も耳に残っています。
福井の母と妹を見て、自分の老後を考えた
もう一つ、私が考えたのは家族のことです。
父は10年前に亡くなり、母は今、福井の実家近くの特別養護老人ホームに入っています。母の様子を見に行ってくれているのは、実家の近くに嫁いだ1つ下の妹です。妹は子ども2人を育て上げ、今では孫も2人います。母が熱を出したときも、施設から妹に電話が行き、その日のうちに駆けつけてくれました。
では、私はどうでしょうか。大阪には親せきがいません。妹の家までは電車で2時間以上かかります。もし私が部屋で倒れても、すぐに気づいてくれる家族は近くにいないのです。そう考えたとき、近所に顔見知りがいることの意味が、仕事で見てきたこと以上に自分ごととして感じられました。
地域の決まりごとや防犯の情報が届く
町内会に入ると、回覧板で地域の情報が月に1回届きます。たとえば、「○月からプラスチックごみの出す曜日が火曜から木曜に変わる」「近くの公園で自転車の盗難が続いている」「区役所で無料の健康相談がある」といった内容です。
区のホームページを毎日見る人は少ないと思います。紙で手元に届くと、見落とさずにすむのは助かります。
災害のときに名簿に名前がある
私の地域の町内会では、一人暮らしの高齢者や、体が不自由な人の名前を、本人の了解を得て名簿にしています。地震や大雨のとき、班長さんがその名簿を見て声をかけに回るしくみです。
2018年の大阪府北部地震のとき、私はまだ大阪に来て1年ほどで、マンションの誰とも知り合いではありませんでした。揺れがおさまったあと、廊下に出ても声をかけ合う相手がいなかった心細さは、今でも覚えています。
入らない場合の気楽さ
入る良さばかりを並べるのは不公平なので、入らない場合の良さも正直に考えました。
班長や当番の役がない
私の地域では、約15世帯で1つの班になり、班長は1年ごとの持ち回りです。班長になると、毎月の会費集めと回覧板の配布、年4回の班長会議への出席があります。
私は介護の仕事で長年中腰の姿勢を続けてきたせいか、腰が重い日があります。雨の日に15軒を回って集金するのは、正直に言って不安でした。
会費がかからない
私の地域の会費は月300円、年間で3,600円です。金額だけ見れば大きくありません。ただ、仕事をやめて収入が年金だけになると、毎月決まって引かれるお金は一つずつ見直したくなります。
付き合いの気づかいがいらない
人の集まりが苦手な人にとって、会議や行事は気が重いものです。私も、知らない人ばかりの場に一人で入っていくのは得意ではありません。東京と神奈川で23年、ご近所付き合いなしで暮らしてきたので、そのほうが気楽だという気持ちもよくわかります。
迷ったときに私が確かめたこと
入る理由にも、入らない理由にも、それぞれ納得できる点がありました。そこで、気持ちだけで決めず、いくつか人に聞いて確かめることにしました。
管理人さんに役の回り方を聞いた
まず、マンションの管理人さんに話を聞きました。管理人さんは平日の朝9時から昼1時まで管理人室にいて、町内会の班長さんとも顔見知りです。
聞いてわかったのは、次の3つです。
- 班長の順番は、体の事情があれば次の人と代わってもらえる
- 盆踊りや清掃は、出られる人だけが出ればよい
- 会費は班長が集めに来るほか、管理人室に預けてもよい
案内の紙だけを読んでいたときは、もっと大変なものだと思いこんでいました。直接聞いてみると、不安の半分くらいは消えました。
入らなかった場合に困ることを調べた
次に、入らなかったら困ることがあるかを考えました。
地域によっては、町内会が管理しているゴミ置き場を、会員でない人が使えるかどうかで話し合いになることもあるそうです。私のマンションには建物専用のゴミ置き場があるので、この点は関係ありませんでした。一戸建てに住んでいる人や、地域のゴミ置き場を使っている人は、ここを先に確かめておくとよいと思います。
「自分は何がいちばん不安か」を紙に書いた
最後に、広告の裏に、自分が不安に思っていることを書き出してみました。
- 部屋で倒れても、誰にも気づかれないこと
- 大きな地震が来たとき、声をかけ合う人がいないこと
- 班長の仕事を体力的にこなせるかどうか
並べてみると、上の2つは町内会に入ることで少し軽くなり、3つ目は管理人さんの話で、ある程度解決していました。私の場合は、入るほうに気持ちが傾いていきました。
もちろん、書き出した結果「自分の時間を守りたい」「人付き合いで疲れたくない」が一番になる人もいるはずです。その場合は、入らないと決めるのも一つの答えだと思います。
町内会に入らなくてもできるご近所付き合い
町内会に入るかどうかとは別に、ご近所と緩く繋がる方法もあります。私が仕事をやめてから続けていることを紹介します。
あいさつは自分から先に言う
エレベーターや玄関で人と会ったら、私のほうから「おはようございます」と言うようにしています。
はじめの1か月は、軽く頭を下げるだけの人が多かったです。それでも続けていると、3か月ほどたったころから、向こうから「今日は寒いですね」と話しかけてくれる人が出てきました。
名前のわかる人を一人つくる
仲良しにならなくても、名前と部屋番号がわかる人を一人つくっておくと安心です。私の場合は、ゴミ出しの時間がいつも重なる2つ隣の男性でした。何度か話すうちに、「最近見かけんかったけど、旅行でも行ってたん?」と声をかけてもらえるようになりました。
行事は「見に行くだけ」から始める
盆踊りや清掃に、はじめから全部参加する必要はありません。私は去年の夏、近くの公園の盆踊りを、缶コーヒーを片手に10分ほど外から見ていただけでした。それでも、そこで顔を見た人とマンションですれちがったとき、「盆踊り来てはりましたね」と声をかけられました。
私の体験談:入会案内を受け取ってからの半年
入会案内を受け取ってから2週間ほど、私は決められずにいました。決め手になったのは、ある雨の日のことです。
午後3時ごろ、近くのスーパーから帰ってくると、マンションの入り口で同じ階のおばあさんが立ち止まっていました。手押し車の前の車輪が、入り口の排水溝のふたのすき間にはまって動かなくなっていたのです。手押し車には、お米の5キロ袋と牛乳が積まれていました。
私は車輪を持ち上げてはずし、荷物を持って、おばあさんの部屋の前までいっしょに運びました。おばあさんは何度も頭を下げて、こう言いました。
「一人やと、こういうときがいちばん心細いんよ。でも町内会の班長さんがときどきのぞいてくれるから、ほんま助かってるわ」
それを聞いて、ヘルパー時代に担当した利用者さんたちの顔が次々にうかびました。カーテンに気づいてもらえた人と、誰とも話さずに一日を終える人。その差を仕事で何度も見てきたのに、自分のことになると「面倒だな」が先に立っていたのです。
翌週の月曜日、私は管理人室で入会の手続きをしました。
入ってみると、ふだんの負担は思っていたより小さいものでした。月に1回、回覧板が郵便受けに入るので、読んだら印をつけて隣の部屋に届けます。かかる時間は5分ほどです。
11月の一斉清掃には、軍手と45リットルのゴミ袋を持って参加しました。朝9時から1時間、公園の落ち葉を集めました。そこで同じ60代の男性と知り合いました。奥さんを3年前に亡くして、今は一人暮らしだそうです。帰り道、「お互い元気なうちはええけど、何かあったときにな」と言われ、二人で少し笑いました。今では、スーパーで会うと立ち話をする仲です。
うまくいかなかったこともあります。一度、回覧板を受け取ったまま3日ほど置き忘れて、次の部屋の方を待たせてしまいました。翌日おわびに行くと、「うちもようやるから」と笑ってもらえて、ほっとしました。
半年たった今ふり返ると、私が町内会に入ったのは、損か得かを計算したからではありませんでした。大阪には家族がいない自分にとって、「この町に知っている人が少しいる」という状態をつくっておきたかったのだと思います。福井の雪かきの朝ほど濃い付き合いではありませんが、名前を知っている人が何人かいる今の距離感が、私には合っているようです。
まとめ:自分に合った「つながり方」を選ぶ
60代の一人暮らしで町内会に入るかどうかは、多くの人が迷うことだと思います。私が考えたことをまとめます。
- 町内会は入るかどうかを自分で決めてよい。まずは管理人さんや班長さんに、活動の中身、会費、役の回り方を聞いてみる
- 入ると、近所に気づいてくれる人ができる、地域の情報が届く、災害時の名簿に名前が載るといった良さがある
- 入らなければ、班長の役や会費の負担がなく、付き合いの気づかいも少ない
- 一戸建ての人は、ゴミ置き場の使い方を先に確かめておく
- 迷ったら、自分がいちばん不安に思っていることを紙に書き出してみる
- 町内会に入らなくても、挨拶や顔見知りづくりで、ご近所とのつながりはつくれる
一人暮らしは自由で気楽です。ただ、年を重ねて家にいる時間が増えるほど、近くに気にかけてくれる人がいることのありがたさを感じるようになりました。
入る人も入らない人も、自分の体力や性格に合った形でご近所とつながっておくことが、この先の暮らしの安心につながるのだと、今は考えています。

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