定年退職した年の秋、クローゼットの奥を整理していたとき、段ボール箱の底から本が2冊出てきました。向田邦子さんのエッセイ集「父の詫び状」と、茨木のり子さんの詩集です。どちらも30代の頃に買ったもので、表紙が少し日焼けして黄ばんでいました。
「そういえばこんな本持ってたな」と思って1ページだけ読み始めたのですが、気づいたら1時間以上経っていました。窓の外がもう暗くなっていました。
💬 その1時間が、私の読書習慣の始まりでした。退職後に初めて「時間を忘れた」瞬間でした。
退職後、時間を持て余していた頃
正直に言うと、退職してから最初の3〜4ヶ月は、時間をうまく使えていませんでした。仕事があった頃は「本を読む時間があれば」と思っていたのに、いざ自由な時間ができると、何から始めていいかわからなくなっていました。
テレビをなんとなく見たり、スマートフォンで動画をだらだら見たりして、夜になると「今日も何もしなかった」という虚しさが残る日が続いていました。
⚠️ 退職後に「何もしていない感覚」が続くと、気持ちがどんどん内向きになっていきます。私はこれを介護の現場で何度も見てきました。そしてそれが自分に起きていました。
⚠️スマホでSNSを見て無駄な時間を過ごし後悔する時間を断ち切る『デジタルデトックス』の時間に読書がとても役に立ちました。
向田邦子さんのエッセイが深く刺さった理由
「父の詫び状」は、昭和の家族の風景を描いたエッセイ集です。読んでいて、自分の子ども時代の記憶が次々とよみがえってきました。
私の父は口数が少ない職人でした。ほめてもらった記憶はほとんどありません。でも運動会の日には必ず弁当箱に梅干しをひとつ多く入れてくれていた。そういうことを、久しぶりに思い出しました。父はもう亡くなっています。
文章を読んで、こんなに感情が動いたのはいつ以来だろうか——そう思いました。仕事に追われていた40代・50代には、ゆっくり本を読んで感情を動かす余裕がなかったのかもしれません。
「1日15分だけ」という約束から始めた
「毎日必ず15分だけ読む」と決めました。「できる限り読む」という目標だと、疲れた日や気分が乗らない日には読まなくなる。上限を決めた方が義務感が薄れて続けやすいと思ったのです。
✅ 読書習慣を続けるための工夫
- 毎日同じ時間・場所で読む(朝食後、コーヒーを飲みながら)
- 「15分だけ」と決めると義務感がなくなる
- 読んだ本をメモしておくと「記録」が楽しみになる
- 図書館を月1回使って出費ゼロで読書量を増やす
朝と夜で読む本のジャンルを変えた
試行錯誤しながら、自分なりのリズムができてきました。
朝:向田邦子さん・椎名誠さんなど、軽めのエッセイや短編。重いテーマの本は朝から読後感が重くなるので、「くすっと笑える」「情景が目に浮かぶ」ものを選びます。
夜:五木寛之さんの「大河の一滴」や曽野綾子さんのエッセイなど、少し骨のある本。寝る前に少し読んで、自分の人生について静かに考える時間が、今では一日の締めくくりになっています。
ℹ️ 昨年(2025年)読んで特に印象に残った3冊
① 五木寛之「大河の一滴」——退職後の喪失感を言葉にできなかった時期に読んで「これだ」と思いました。② 曽野綾子「老いの才覚」——「老いを自覚してできることに集中する」という考え方が背筋を伸ばしてくれました。③ 向田邦子「父の詫び状」——何度読んでも違う部分が心に刺さります。
年間15冊読めるようになった
仕事をしていた頃は年に1〜2冊がせいぜいでしたが、昨年は年間で15冊読みました。自分でも驚いています。「1日15分」という小さな積み重ねが、気づいたら大きな変化になっていました。
読書で変わった「一人暮らしの景色」
読書習慣を続けるうちに、一人暮らしに対する感じ方が変わりました。以前は「一人でいる=孤独」という方程式がありましたが、読書をしていると本の中の人物や作者と対話しているような感覚があります。
孤独は消えませんが、孤独との付き合い方が少し変わりました。ボランティア活動で顔を合わせる人に「最近どんな本読んでますか?」と話しかけられるようになったのも、読書習慣ができてからです。
📌 読書が「孤独の処方箋」になった
一人でいる時間が「自分だけの時間」として充実したものに感じられるようになりました。読書が、孤独を「寂しさ」から「自由」に変えてくれました。
断捨離で作った読書コーナー
部屋の断捨離が進んでから、窓際に小さな読書コーナーを作りました。椅子と折りたたみテーブル、スタンドライトだけの簡素なスペースです。でも「そこに座ったら本を読む」という場所を決めることで、習慣が強化されました。
読書が「ひとりの時間」を豊かにした理由
退職後に読書量が急増した。現役時代は「本を読みたいけど時間がない」とずっと言っていた。退職してその時間が来たのに、最初の1ヶ月はなぜか本が読めなかった。テレビのニュースやスマホのSNSに時間が流れていった。
変わったきっかけは、スマホの電源をオフにして1時間だけ本を読む日を作ったことだ。その1時間の静けさが、思いのほか気持ちよかった。「ああ、俺は本が好きだったんだ」と、退職後3ヶ月目に初めて思い出した。
💬 読みかけのまま本棚に積んであった本を手に取ったら、10年前に付けた付箋がついていた。あの頃の自分が「大事だと思った言葉」が、今の自分にも刺さる言葉だった。10年越しの再会に、少し胸が熱くなった。
図書館という「居場所」の発見
週2〜3回、近所の図書館に通うようになった。本を借りるだけでなく、館内で読書する時間を作っている。図書館の静けさは家の静けさとは違う。「ここにいていい」という空気がある。
図書館のスタッフに「60代男性の読書におすすめの本はありますか?」と聞いたら、丁寧に何冊か紹介してくれた。それ以来、定期的に話しかけるようになり、今では「ゴンタさん」と名前で呼んでもらえる顔なじみになった。図書館が、小さな「居場所」になった。
✅ 読書習慣を作るための3つのコツ
- ① スマホをオフにした「読書専用の1時間」を毎日同じ時間帯に設定する
- ② 図書館に週2〜3回通う習慣を作る(本を借りる目的より「行く理由」として)
- ③ 本に付箋を貼り、気に入った一節をノートに書き写す(記憶に残りやすく、後で読み返す楽しみになる)
本から広がった「知的好奇心」
読書を通じて、60代になって初めて興味を持った分野がいくつかある。日本の中世史(城めぐりのきっかけ)、俳句の歴史(俳句教室で深みが増した)、食の科学(血糖値改善に役立った)——本が「入口」になって、実生活の趣味や習慣につながっていった。
ℹ️ 60代の読書におすすめのジャンル
①歴史・郷土史(旅が深くなる)②健康・医療(体の変化を理解する)③伝記・自伝(同世代の生き方に学ぶ)④俳句・短歌(言葉への感性が磨かれる)⑤哲学・心理(老いや死と向き合う助けになる)——特定のジャンルに縛られず、興味の赴くままに選ぶことが読書を楽しく続けるコツです。
おわりに
「60代から読書習慣を作れるのか」と思っている方に言いたいのは、「60代だからこそ深く読める本がある」ということです。人生経験があるからこそ、若い頃には刺さらなかった言葉が心に届く。それが60代からの読書の特権だと感じています。
最初の1冊は何でもいいです。昔買って放置していた本でも、図書館で表紙が気になった本でも。まず15分だけ、試してみてください。
📋 この記事のまとめ
- スマホをオフにした「読書専用1時間」が読書習慣のスタートになった
- 図書館への週2〜3回通いが「居場所」を生み、スタッフとの顔なじみ関係が生まれた
- 本は「入口」になる——城めぐり・俳句・健康改善すべてが本から広がった知的好奇心から
- 10年前の付箋の言葉が今でも刺さる——本は「過去の自分との対話」でもある
- 60代の読書は歴史・健康・伝記・俳句・哲学がおすすめ。興味の赴くまま自由に選ぶ


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